およそ一年ほど前の事、道の駅おたり様より、「地域色のある、オリジナルの日本酒が欲しい」という事で、我ら白馬錦が新しい商品開発に協力させて頂く事になった。
この話のスゴイ所は、「元からある商品のラベルを変えただけ」とか、「原酒からの派生形」とかのものではなく、”ゼロからの完全新作オリジナル商品である”という点。
つまり、「過去の白馬錦ラインナップには無いお酒を小谷のオリジナル商品として醸造&販売する」という事であり、この時点で道の駅おたり様の並々ならぬ熱意が伝わってくる。
さて、実際の製品だが、まず酒米からして違う。
酒米は小谷村百姓七人衆の皆様による「長野県小谷村産 ひとごこち」を使用。
更に「できれば辛口のお酒がいい」という要望を受け、商品バランスを鑑みながら、松浦杜氏が味わいと軽やかさに定評のある「KA-4」と呼ばれる熊本酵母をチョイス。
もうこの時点で過去の白馬錦には無い、白馬錦として新しい味わいの酒が醸されるのは必定であろう。
そしてこの2021年10月1日より、いよいよ「道の駅おたり with 白馬錦」のコラボレーション完全新作日本酒「月波ノ月」と「月波ノ波」がリリースの運びとなった。
原料米:長野県小谷村産 ひとごこち
精米歩合:70%
使用酵母:熊本4号、協会701号
アルコール:15.0% 日本酒度:+4.0
酸度:1.6 アミノ酸:1.5
■ 常温
ややもっちり感のある米麹の香りが鼻孔をくすぐる。口に含むとまるで”槍”を連想させる、鋭い酸味が口の中でほとばしる!
この強い酸味の端々を整える感じで、旨味と甘味がサポートしているのが分かる。この旨味と甘味のサポートにより、その質感をつるりとした透明感のある酸味へと昇華させている。
杯を重ねるとシュッと口の中に入ってくる印象があり、「香りが淡く、ライトな酸味が美味しいワイン」の感覚で飲むことができる。イタリアン料理や酢の物の和食との相性が特に良さそうであると思われた。
■ 55度の燗酒
常温と同じく、酸味が前面に出てきている味わいだが、より全体のバランスが整った印象。これにより常温よりも更にシュパっと口の中に入ってくるので、一種独特のスピード感すら感じるほど。いわゆる「夜の飲食店料理」なら、ほぼほぼこの熱燗酒とマッチするのではないか?という気がする。
原料米:長野県小谷村産 ひとごこち
精米歩合:70%
使用酵母:熊本4号、協会701号
アルコール:15.0% 日本酒度:+12.0
酸度:1.2 アミノ酸:1.1
■ 常温
柔和な米と麹の立ち香を感じる。ごくライトな旨味と、キッとした酸味。酸味の強さに対し、甘味などが少ないという印象があるので、結果的にドライな酸味を基軸としたお酒であると感じる。(このあたりはスペック中、日本酒度+12 という数字がそのまま味に出ている。)
アルコールの強さによるものではなく、「酸味のバランスが醸し出す辛口酒」といった味わいだ。
■ 55度の燗酒
いわゆる”普通酒の燗酒”っぽさをたなびかせ、酸味で味を締め上げながら喉へスルルと入ってゆく。酸味の強さに対し、甘味などのボディ分が少ない印象があるので、「お腹に溜まらない」と勘違いしてしまう。
料理と一緒に口にすると「水ように入ってゆく燗酒」であると思う事だろう。ご自宅であれ、飲食店であれ、「あれ?さっき徳利満杯だったのに・・・?」と、首を首をかしげる事ウケアイだ。
ベース部分は「小谷産ひとごこち」の酒米と、「熊本4号/協会701号」の合わせ酵母によって構成されており、グレード的にはいわゆる「日常酒クラス」に位置する。
普通酒については純米酒からの派生商品となるので、二つともおおよその方向性は同一と考えてよいだろう。
本作のラベルはイラストレーター「西 淑(nishi shuku)」さんの手によるもの。シュール&キュートな絵柄でありながら、柔和さと哀愁が漂う、印象のあるデザインに仕上がっている。
酒質もさることながらデザイン的にも、過去の白馬錦ビジュアルには無かった風合いであることもまた見逃せないポイントと言えよう。
・・・全体的には「酸味を基軸にした、ドライテイストの辛口酒。料理と一緒で更に魅力が増すお酒」というお酒であると感じた。
「一席の料理」のみならず、純米版を軽く冷やして、チーズなどと共に少量楽しむのもアリかもしれない。これまで白馬錦のお酒は(かなり漠然とした捉え方をすれば)、「お米の柔らかい甘みと旨味が身上」という骨格があったように思うが、今回のように酒米と使用酵母を変更すればこれほどまでに質感の変化が現れるのだという、予想外の側面を垣間見る事が出来た。白馬錦を呑みなれた方は特に、「これが白馬錦の酒なのか!?」と驚く事だろう。